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アメリカ 2000年8月5日
 あやうく三日坊主を地で行きそうになりながらも、ふたご日記は第4弾に突入!
 とはいえ、ふたご日記とは名ばかりで、ひとり気を吐き続けるかずおです。
 今週の月曜日からあすの日曜日まで、小さなまさおは大きなアメリカの一部になっている。今ごろアリゾナの奥地でワニにかじられていないだろうか…などと最低限の兄弟愛を感じつつ、無知と偏見に満ちた不安にかられる毎日。はやくみやげ持って帰ってこい。
 そんなわけで、まさおのアメリカ滞在記を前に、僕のアメリカの思い出をひとつ。
 
僕がまだ23歳の大学3年生だったころ、まさおと友達と3人でサンフランシスコに遊びに行こうということになり、何ひとつヤボ用もなかった僕は、カメアリにでも行くような気持ちで軽―くオッケーした。
 さて、出発の3日くらい前のことだっただろうか、アルバイト先の若ダンナ(当時僕は西国分寺駅前の「天龍」という割烹で板前補助をしていた)が、鼻歌を歌いながら掃除している僕に話しかけてきた。


 「おまえアメリカなんて行って遊ぶ金あんのか?」
 「ええ、一応貯金がありますんで・・・」
 「ナニ、いくら持ってくんだ。」
 「へい、3万・・・」
 
(間髪入れずに)「ばかやろう!」
 
「?!」

 怒鳴られた。 僕の全財産が吹き飛ばんばかりに怒鳴られた。
 その後はもう、まるでスーパーの陳列棚がら崩れ落ちるリンゴの山のごとく、後輩が見てる前でバカだアホだとさんざん罵声を浴びせられた。
 ひとしきりあきれ終わり、若ダンナが事務所に引っ込むと、「ちぇっ」とか思いながら僕は掃除の続きをはじめた。
 すると今度は若奥さんがやってきた。
 早くも話は店中に広まっているらしく、「なあに三輪くん、アメリカに3万しか持っていかないんだって?」ってケラケラ笑いながら話し掛けてくる。
 「いや、その・・・」と、逃げも隠れもできない僕はただただテレ笑いと苦笑いを繰り返していた。
 若奥さんは思う存分笑うと、ふう、と息をつき、エプロンのポケットから封筒を取り出した。

 「これ若ダンナが持ってけって。」
 「?」

 その封筒を開けてみると、中には隅っこに泥のついていない1万円札が2枚入っていた。

 「これで遊んでらっしゃい。」
 「わ・・・わ・・・若奥さん!」
(これはウソ)

 若ダンナは自分のポケットマネーから僕におこづかいを持たせてくれたのだ。
 人前で泣けない僕は、泣けないなりに深い感謝を顔で表現しながら、何度も頭を下げたのだった。

 僕はこのことを思い出すたびに、無謀な自分を恥じるとともに、不器用ながら心の温かい若ダンナに胸が熱くなる。
 社会人になり横浜に戻ってからは、とんと疎遠になってしまい、世話になった恩も返せずにいるけれど、この多感な青春時代の経験は僕の心のこやしとなり、人への愛情の深さを形成している。・・・いる?
 うーん、人間って美しいよね〜。
 ってぜんぜんアメリカの話じゃなかったな。

かずお