チビ人生 2000年10月9日
 自慢でもあるが僕は生まれてこの方、一度も二番目になったことがない。しかもそれは一番目にしかなったことがない、という意味でである。ずごいだろ。
 つまり幼稚園に始まり高校を卒業するまでの間、学級内チビティビ選手権において14年連続優勝を成し遂げた実績の持ち主、とゆーことなのであるうえ〜ん。
 もちろん僕よりチビはいた。しかしそいつは「まさおの2親等」という理由だけで僕と同じクラスにならなかったのである。しかもその2親等ときたら校内のチビどころとうまい具合に同じクラスになって、3番目とかになっちゃったりしてかなりいい思いしていたのである。

 暫定2位が一度だけあった。
 小学校4年の春、その校内チビどころの一人、「鈴木にゅんいち」(仮名)とついに同じクラスになったのである。学校へ行くのが嬉しかった。「早く背の順になろうよ〜」なんて手のひらを返したように、今の“人格者まさお“からは想像も出来ないような悪態をつく始末だった。

 ♪しかし3日でクラス換え〜♪

 学校あげての小粋な冗談かと思ったが、どうも飛び込みの転入生がいたらしく急きょ人数配分の変更を余儀なくされたらしい。まったく勝手なもんさ。
 先生からその衝撃的なニュースを聞いた瞬間、僕はクラスのみんなと顔を見合わせ驚きつつ、はっきり言って頭の中は「にゅんいちを失う悲しみ」でもうイッパイだったのである。
 「ふざけんな、にゅんいち」
 若さゆえの理不尽さか。僕はお世話になったはずの罪なき弱者を、恨みやすかったので恨んだ。(今でもわりとそうだが)
 結局「にゅんいち」はまたしても2親等の手に渡り、僕は夢でも見ていたかのごとく何事もなかったように、また人に見下ろされるだけの生活に戻ったのである。

 「背の順」
 この痛々しい響きに僕は多感な青春時代を幾度となく翻弄され、男の覇気というものをことごとく奪われてきた。
 あなたたちには分かりますか? 好きで好きでたまらない女の子に小さな背中を見られ、その後姿を中心にみんなが体操に体系に広がってゆくのですよ。
 男として保てますか?プライドを。
 僕の青春時代(5歳〜)はまさにこの「背の順」という名の絶望との戦いだったのである。

 これは僕が小学校6年生の頃の話です。
 とある映画を見るために、全校生徒が体育館に集合した。
 館内が暗くなり映画が始まったにもかかわらず、僕は「映画もいいけど大櫛クンもなかなかいい奴だよ」なんて思いながら、僕の次に背の低い大櫛クンとお喋りをしていたのです。
 当然僕が後ろを向かなければなりません。一番前であからさまにそんなことをしていたので、「映画そっちのけで盛り上がるイケナイ生徒の例」が先生から丸見えだったわけですね。とつにょ暗闇からとてつもない剣幕で悪名高き田島先生(バカ)があらわれ、
「ぐわっ」と襲いかかるように僕の座っていた防災ずきんをひっつかんだかと思うと、「ツツツツー!」と猛スピードで僕を前に引っ張り出したのである。
 一瞬にして僕は一人になった。
 そこは全校生徒の塊から10mほど前に飛びぬけた場所で、生徒が一人ぽつんと座るにはあまりにも不自然な場所だった。
 僕は全校生徒の痛い視線を背中に浴びつつ、熱くなってゆく顔に無理やり穏やかなスマイルをつくりつつ、
 「映画おもしれ〜!マジ集中してま〜す」
 というイカニモな雰囲気を必死でかもし出しながら、長すぎる2時間を過ごしたのである。
 その間一度も振り向けなかったが、同じように遠くはなれた場所で、ついさっきまで談笑していたはずの友がはるか10m先で孤独に耐えながら必死で映画を見る姿を見つつ、大櫛クンもさぞや困惑してたことだろうと思う。まあ僕に比べりゃそんなの屁だが。

 この人生最大の屈辱は、あくまで僕がチビであったということに端を発しているのである。
 おしゃべりしてたからなんかじゃないよ。
 僕が「一番前にいて、しかも運びやすそうなお手ごろサイズだった」からなのである。(そうに決まってるのである)

 みんなにとって背の順、整列といえば前の人の後頭部くらいしか思い出はないだろう。
 僕はいつも前がだだっ広く開けたその場所で、並み居る各クラスのチビたちと妙な親近感を覚えつつ、自分の小さいがゆえの無力さと不安とコンプレックスに支配されながら生きていたのである。
 そして僕は強い者に巻かれるために愛想笑いを覚えた。
 武力による争いを避け、「やんわり」ビームを必死で放った。
 人に笑いかけながらも、結構僕は戦っていたのである。

 今やそれが僕の処世術となった。
 「チビである」ということは僕にとって、その人格を決定しうる2大キーワードのうちの1つなのである。
 人との付き合い方、キャラの作り方、服の選び方、女の子の好み、
 どれをとっても僕のこの身長抜きには語れない。
 (言うまでもないが、もうひとつのキーワードは「ふたご」である)

 あの頃もし先生たちが
 「よ〜し!相対的に地球がデカイ順に並べ!」
 って言ってたら、僕の人生にフォークソングなんていらなかったかもしれない。
まさお