雨の反町公園 2000年10月3日
 先週の土曜日、僕らは反町公園で開かれたお祭りのライブイベントに参加した。
 出店でにぎわう広場の裏にある噴水の水を抜いてこしらえたステージで、いつものようにしっぽりと歌わせてもらったのだが、“くもりのち雨”の天気予報どうり、僕らが歌い終わったすぐ後からパラリパラリと雨が降り出した。
 まさに間一髪、まさおとふたりで「よかったね〜」とホッと胸をなでおろしていたのだが、そんな喜びもつかの間、いともたやすく運を使い果たされてしまった僕は、そのあと反町公園の魔物にとりつかれてしまったのだった。

 出番が終わりステージを降りると、僕らは来てくれた友達のところに行き、楽しいおしゃべりに花を咲かせていた。すると、ひとりの女の子が天使のようにささやいた。
 「風船が欲しい!」

 「よっしゃ!」
 ライブ後で無意味にハイテンションな僕は、じつに快くオーケーすると風船配りのお姉さんのところに全力疾走で走っていった。
 「風船ください!」
 子供たちの波をかきわけ、緑色の風船をゲットすると、僕は再び全力疾走でみんなが待つところへと走り出した。
 木々が立ち並ぶ小さな丘の上を、ラガーマンさながらに風船を脇に抱え、アウトラインいっぱいにハヤテのように駆け抜けようとしたその時、

”カクッ!”

 と、不意にひざが折れた。

 「!!!!っ」

 最近駅の階段を駆け上るだけでひざが笑ってしまうほど運動不足だった自分をとっさに思い出すも、時すでに遅し、完全にバランスを失った僕は、全力疾走の勢いそのままに、木の根や石ころでボコボコの大地にもんどりうってすべりこんだ。

 ズザザザザッ!

 2秒後、僕はやさしいの風の歌声に抱かれ、大の字になってぶっ倒れていた。

「あーあ」

 あまりの激しさに笑うに笑えないみんなのため息にふと見上げてみれば、天に帰ろうとした風船は高い木々の枝に遮られたまま、僕をゆらゆら見下ろしていた。

 洗いたてのズボンとおろしたてのシャツを泥だらけにした僕は、したたかにすりむいた背中を、責任を感じた風船欲しがり屋の女の子にぬれたティッシュで拭いてもらうと、おとなしくライブを見ることにした。

 さて、ライブはしれしれと進んでいくも、雨はますます強くなるばかり。祭りの出店も次々にのれんを下ろし、そろそろライブもお開きかと思われたその時、

 「みんな私に力を貸して!」
 司会者の女の子の悲痛な叫び声が響いた。
 
「雨なんかに負けない!なにがなんでも最後までやろうよ!」
 と、熱くみんなに呼びかけると、ステージにテントを張るからみんな来てくれと言い出した。
 出演者とスタッフのはざまで生きるふたごにも、当然お呼びがかかる。

 「よっしゃ!」
 お祭りの出店で買った生ビールでほろ酔いかげんの僕は、まさおの後について威勢よく飛び出した。

 ところがどっこい、噴水の水を抜いて作った特設アリーナ席、そこは雨で元気を取り戻したコケたちの盛り場。その上を軽やかに走り出した僕の足は、いともたやすくツルりんこ。

 「あやまちはくり返すまい」
 そう自分にいいきかせながらぐるぐる回す両腕は、むなしく空を切りまくる。
 はちきれそうな脈拍、斜めになる景色。いたずら好きな神様にもてあそばれた僕は、ポケットの中身をまき散らしながら激しく地面にたたきつけらた。

 みんなの愛のない笑い声を一身に受け、僕はビタビタの地面に横たわる。
 パッキリと割れたドロドロシャツのボタンが、転倒の激しさを物語っていた。

 …神様のばかやろう。

 雨の反町公園。
 そこは魔物がすむところ…。
かずお