三輪ゴキ男 2000年8月13日
 僕たちのマンションの一階には、マグロほほ肉ガーリックステーキがお勧めの飲み屋と、コーヒーデニッシュを作らせたら日本一のパン屋がある。
 日頃大変お世話になっているこの二つのお店。
 しかしひとつ困ったことがあるんです。
 ・・・ゴキブリ飼ってるんですよ、彼ら。
 ペット禁止なんですよ、うちのマンションは。
 しかもこれがまた、い〜いもん食ってるもんだから(おそらく僕たちよりも)色つやといい体格といい、たいそうご立派でして。
 ゴキ子;「あそこのマスター、料理の腕もさることながらブリーダーとしても巨匠級らしくってよっ」
 ゴキ介;「あらっ、それは聞き捨てなりませんなぁ!」
 ゴキ則;「なんっ…てまあ、うらやましい話しだべか〜」
 一同;「・・・育てられてえな〜ぁ」
 ゴキ男;「おら東京さ行くだ!」
 一同;「な、何ですと〜!?」
 ゴキ男;「おら日本一立派なゴキブリになりてえだす!」

 ―二日後―

 ゴキ介;「いいかい、東京に着いたら「みわさん」って人を訪ねなさい。きっとやさしくして下さるで。なにせ“平成の生き仏”まさおさんがおらっしゃる。まあかずおもいるし。そこから通えばええ」
 ゴキ男;「うん、わがった!“幸せ請負人”まさおさんだね!」
 ゴキ介;「うんにゃ、ちがうぞ、“ハマの貴公子”まさおさんだ!」
 ゴキ男;「そうか!“そよ風予報士”まさおさんなんだね!」
 ゴキ介;「ようし!そうだ。行って来〜い!」

 なんて感じで全国各地から憧れ半分・夢気分のゴキブリたちが大集合。
 すっかり都市化。今や本郷台きってのメガロポリスです。
 まあ僕は彼らの志を知っているので、極力手出しはしないようにしてます。
 さすがにじゅうたんの上なんか歩かれたりすると、僕も黙っちゃいないけどね。
 そんなときはスプレーで瀕死まで追い込み、ベランダから「ぽいっ」ですよ。
 「ごめんな、うちゴキ男で手一杯なんだ」って言いながら。

 ゴキブリもさ、もう少し体裁ってものを考えた方がいいと思うんだよね。
 たとえばね、いくら“昆虫の王者”カブトムシだとしてもだよ、ゴミばっか食ってさ、部屋の中で「ぶばばば!」とか飛ばれたらそりゃ引くよ。
 逆にさ、花から花へ、そよ風まとって悠々と大空を飛ぶゴキブリを想像してごらんなさい。
 かっこいいぜぇ?おい。めちゃめちゃさわやかじゃねーかよ、なあ。
 素敵か素敵じゃないかなんていうのはさ、ミテクレじゃないんだよ。
 自分をもっと愛しぬいてさ、「どうしたらもっと輝けるんだろう」って誠実に悩むことだよ。
 そんでもって自分にとっての「最高のステージ」を見つけるのさ。
 まずはそういう姿勢だよ。意気込みなんだよ。大事なのはさ。
 そうやって頑張ってる奴って絶対回りの人(虫)のことも大切にしてるもん。
 そうしたらそれだけでもみんなそいつのこと「素敵!」って思うぜ。
 カブトムシはわかってんだよそういうとこ。わきまえてんだよ「自分のあり方」ってものをさ。
 王者たる所以だね。
 だから頑張んな、ゴキブリさんも。頑張ったほうがいいよぉ、うん。
 ゴミなんか食べないでさ。蜜とか吸いなさいよ、蜜とか。おんも出なさい。
 さわやか〜に生きてさ、君らも愛される喜びってものを知ったほうがいいよ。
 長生きすりゃいいってもんじゃないよ。

 なんだか説教くさくなっちゃいましたね。っていうかただのおせっかいですよね。
 しかし僕も人(虫)のこととやかく言うの好きだな。反省しないとな。うんうん。
 いや結局僕が何を店長に言いたいかっていうとね、
 僕の経済力じゃそんなに飼えないのに、むやみやたらと育てないでくれってことなんですよ。
 いやほんっと。
まさお